自殺のあった不動産の告知義務が生じる期間や違反した場合について
2023年5月16日
自殺や殺人など過去に事故があった場合、それが隠蔽されていると、買い手や借り手が不利益を被ることがあるため、不動産業者は告知義務を負います。
告知義務とは、不動産業者が販売または賃貸する物件について、買い手や借り手に対して必要な情報を提供する義務のことです。
本記事では、自殺のあった不動産の告知義務の必要性、告知義務が生じる期間や違反した場合などについてまとめました。
自殺があった不動産は事故物件となる?
マンションや戸建て住宅、アパートなどで、自殺、殺人、不自然な死などが発生した場合は告知義務が生じます。不動産業界では、告知義務がある物件のことを一般的に「事故物件」として扱っています。
事故物件には以下のような種類があります。
・自然死物件:病死や老衰、自然死などがあった物件
・不審死物件:殺人や自殺、事故死などがあった物件で、死因が明らかでない場合や、警察の捜査が行われている場合
興味のある不動産が事故物件であると聞くと、一般的に買主・借主は心理的乖離(心理的な抵抗がある状態)が起こりやすいです。
その結果、買主・借主側は物件の賃貸契約を結ばなかった、または契約内容に変更を求めることもあります。
告知義務が生じる期間
事故物件であることを新たな借主に伝えるかどうかについては、これまで確かな基準が存在せず、慣習や判例などを参考にして個々で判断してきました。
しかし、2021年に事故物件に関する告知義務の判断基準をまとめた「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が国土交通省から発表されたことから、告知義務について判断しやすくなりました。
ここからは、同ガイドラインに沿って詳しく解説していきます。
原則は3年
ガイドラインによると、賃貸の場合における告知期間については「原則として概ね3年間程度」とされています。
ただし、告知期間については個別の事情に応じて判断されるため、必ずしも3年間が経過した時点で告知義務が消滅するわけではありません。
たとえば以下のような例外があります。
・入居者からの問い合わせがあった場合
・事件性が高く社会的影響力が強い場合
・近隣住民にとって深刻な事件があった場合
上記のケースでは、借主の心情を踏まえて3年の期間を超えて告知が必要とされています。
売却の場合は無期限
ガイドラインでは、不動産売買においては告知の期限は定められていません。その理由は、買主には自分や家族が住む不動産の歴史や状況を正確に知る権利があるからです。
賃貸契約に比べ、売買契約においては買主が不動産の所有権を取得するため、買主にとって重要な情報を適切に提供することが求められます。
自殺やほかの死亡事故があった不動産には、法的問題や精神的な負担があることがあり、買主がそのような事実を知らずに不動産を購入すると、後々トラブルが発生する可能性があります。
また、自殺や死亡事故があった不動産は市場価値が低下する可能性があるため、買主が正確な情報を知らずに値段を決定すると、不適切な評価が行われる場合があります。
そのため、自殺や死亡事故があった不動産を売却する場合には、期限を問わず正確かつ適切な情報提供が必要です。
告知義務に違反した場合
不動産業界においては、物件の販売や賃貸に際して、その物件に関する情報を正確かつ適切に提供することが求められます。
特に告知義務を守らない場合、買い手や借り手は物件に隠された問題点を知らなかったことによる損害を被る可能性があります。
ここからは、万が一告知義務違反をした場合、どのような事態になるのかをお伝えします。
契約解除
契約解除とは、契約を破棄し白紙に戻すことを指します。
売買契約においては、買主側が物件の瑕疵や不都合な事実があることを知らされずに契約を結んだ場合、売主や不動産業者が告知義務を怠った場合に限り、契約解除が可能となります。
補修請求や減額請求は、契約を維持したままで問題を解決することを目的としており、契約解除とは異なります。
契約解除は、売主側が買主側の要求に応じることで解決されることが多いですが、解決しない場合には、裁判所による調停や訴訟に発展する可能性もあります。
損害賠償
告知義務違反による損害賠償とは、不動産売買に関する契約の成立後、売主または不動産業者が買主に告知すべき事実を告知しなかったことにより、買主が損害を受けた場合に支払われる賠償のことを指します。
実際に、不動産業者が自殺のあった物件の告知を怠ったことにより、買主が精神的苦痛や不安を受けたとして、不動産業者に対し損害賠償請求を認める判例もあります。
自殺があった不動産の売却相場
ここからは、自殺があった不動産を何らかの事情で売却する場合、相場はどれくらいになるのかみていきましょう。
価格が大きく下がるケース
自殺があった物件は、その事実が知られると周辺物件よりも下落する傾向があるとされています。
また、
・自殺によって建物に大きな影響を与えた
・一家心中や集団自殺など事件性の高い
・マスメディアに取り上げられたもの
などは、自殺物件の売却価格が大幅に下がる傾向があります。具体的には、自殺物件の売却価格は相場よりも30〜50%程度下落すると想定しておくと良いでしょう。
また、自殺物件を売却するには、特殊清掃や残置物の撤去、相続登記などの費用がかかる場合があります。特に、特殊清掃は高額な費用がかかることがあります。
そのため、売却価格が下がらない場合でも、さまざまな経費によってトントンになる可能性も否めないでしょう。
価格が少し下がるケース
不動産に自殺事件があった場合でも、その物件の価格に影響を与えないケースが存在します。以下に、そのようなケースをいくつかまとめてみました。
・周囲に自殺が知られていない
・建物へのダメージが少ない
・経過時間
・好立地
・タイミング
これらの物件であれば、通常の物件より少し下がる価格で売却可能な場合があるでしょう。立地条件や周辺環境が良好である場合や、一定の期間が経過すれば、自殺事件があった物件でも、忘れ去られてしまうことがあります。
たとえば、建物の老朽化や近隣の不動産価格の上昇がある場合、自殺事件の影響が薄れることがあります。
また、物件の価格は市場需要と供給によって決まるため、タイミングによって価格に違いが出ることがあります。
市場が活発であれば高値で取引されますし、市場が冷え込んでいる場合には低価格で売却されることが多いです。また、金融政策や景気動向、住宅ローン金利などによっても相場は変わります。
このように、自殺のあった不動産でも条件さえ良ければ相場相応の価格で売却可能です。後悔しないためには安値で手放さないよう注意が必要です。
自殺があった不動産を売却する方法
自殺があった不動産を売却する場合、その死亡事件が購入希望者にとってマイナス要素となるため、不動産を売却するのは容易ではありません。
しかし、いくつかの方法を使って、その問題を解決することができます。
時間を空けてから売却する
時間を空けてから不動産を売却することです。死亡事件が起こった直後は、売却が非常に困難であり、買い手が見つかる可能性は非常に低いです。
しかし、時間がたてば、事件の記憶が薄れ、物件の評価が変化することがあります。そのため、不動産を売却するためには、しばらくの間待つことが重要です。
どの程度時間を空けるべきかは、自分で判断せず不動産会社などに問い合わせましょう。
更地にしてから売却する
もうひとつの方法は、更地にしてから不動産を売却することです。これは、死亡事件が起こった場所を完全に消し去ることができるため、不動産の評価が高くなる可能性があります。
しかし、更地にするためには建物を解体する必要があり、その費用はかなり高額になる可能性があります。また、地域によっては更地にすることが困難な場合があります。
不動産会社を通して売却する
不動産会社を通して事故物件を売却するメリットは以下の通りです。
・適正な価格で売却できる
不動産会社は、不動産市場の動向や近隣の物件価格などを把握しているため、事故物件でも適正な価格で売却することができます。
また、不動産会社は、事故物件のリフォームや清掃などのアドバイスも行ってくれるため、より高い価格で売却することができます。
・面倒な手続きを代行してくれる
事故物件の売却にはさまざまな手続きが必要です。不動産会社は、これらの手続きを代行してくれるため、売却に必要な書類や手続きなどを一括して行うことができます。
また、事故物件にはさまざまな法的問題がある場合がありますが、不動産会社はこれらの問題を解決するための専門知識を持っています。
・安心して売却できる
事故物件を売却することは、個人で行う場合に比べリスクが高い場合があります。
しかし、不動産会社を通して売却することで、売却に関するアドバイスや専門知識を持ったスタッフが対応してくれるため、安心して売却することができます。
・買い手のリストを持っている
多くの不動産会社は買い手のリストを持っています。これは、事故物件を買いたい人がいる場合に役立ちます。
不動産会社を通して売却することで、買い手探しにかかる手間や時間を大幅に短縮することができます。
買取専門業者に売却する
不動産買取業者とは、不動産の売却を専門とした企業で、不動産の売却代金を現金で一括で支払ってくれるサービスを提供しています。
不動産買取業者は、不動産の査定や買取、売却手続きなどを一括して行ってくれるため、売却にかかる手間や時間を大幅に短縮することができます。
一般的に、不動産買取業者は自社で買い取った不動産をリフォームや再開発などを行い、再度売却することで利益を得ているため、買取価格は市場価格よりも低くなることがあります。
しかし、不動産を早急に売却したい場合や、不動産の買い手が見つからない場合など、手続きや手間を省くことができるため、需要があるサービスとなっています。
また、不動産買取業者は、一般の不動産業者と比較して査定や手続きなどのスピードが速いことが特徴です。スムーズに買い手を見つけ、即座に買取価格を提示してほしい際におすすめです。
自殺があった不動産に関するよくあるQ&A
不動産取引において、自殺や他人の死亡があった場合、購入希望者や賃借人が不安を感じることがあります。
ここでは、不動産に関する自殺についてよくある質問にお答えしていきます。自殺があった不動産に関して知っておくべきことや、不動産取引においての注意点について解説していきます。
一度入居があれば告知は必要ない?
賃貸契約の場合、「自殺があった後に一度入居があれば、告知しなくて良い」という話があります。
しかし、判例としては明確な定義はされておらず、状況によって異なるとされています。そのため、不動産会社に相談することが必要です。
ただし、告知しなかった場合には、借主側からのクレームやトラブルが発生する可能性があるため、告知義務の有無にかかわらず、貸主側としては事前に相談をすることをおすすめします。
敷地内の自殺も告知しなければいけない?
マンションなど共同住宅においても、自殺があった場所についてはガイドラインでは告知は必要ないとされています。
しかし、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は、この限りではありません。
特に、莫大な金額が動く売買契約の場合は告知しなかったばかりに、買主に損害賠償で訴えられることも頭に入れておく必要があるでしょう。
買い手や借り手は見つかりにくい?
自殺があった物件は、一定のデメリットがあるため、買い手や借り手を見つけるのが難しい場合があります。
ただし、物件の立地条件や価格、間取りなどが魅力的であれば、買い手や借り手が見つかる可能性は高くなります。
また、専門業者に依頼することで、適切な対策を講じることができ、買い手や借り手を見つけるためのサポートも受けることができます。
少しでも高く売却するにはどうすればいい?
まず、自殺後の室内の清掃を特殊清掃業者に依頼することで、物件の状態を改善することができます。
また、複数の不動産会社に査定を出してもらい、それぞれを比較して売却希望に合った不動産会社を選ぶことも重要です。
さらに、告知義務違反や価格設定などでトラブルが起きないように、専門家のアドバイスを受けることもおすすめです。
まとめ
不動産取引において、自殺や他人の死亡があった場合、その情報を知っている場合には告知義務が発生します。
告知義務に違反した場合、売主や不動産業者は損害賠償請求や契約の取消しなどの法的な責任を負うことになります。
しかし、自然死など、その物件で人の死があった場合にすべて告知義務が生じるわけではありません。
不動産取引においては、正確かつ適切な情報提供が大切です。自殺や死亡があった不動産については、売主や不動産業者が適切な判断を行い、必要に応じて適切な情報提供を行うことが求められます。
「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」などを参考に、告知義務について熟知しておきましょう。